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青森地方裁判所 昭和30年(ワ)210号 判決

原告 国

訴訟代理人 横山茂晴 外三名

被告 小山田繁次郎 外六名

主文

被告小山田は原告に対し十和田市大字三本木字南金崎九十九番宅地二百四十八坪七合五勺の地上にある別紙目録記載の建物を収去して該当地を明渡し、かつ、金一万三千五百四十九円及びこれに対する昭和三十年十二月一日以降完済まで年五分の割合による金員並びに昭和三十年十二月一日より右土地明渡済に至るまで一ヶ月金四百八十七円の割合による金員を支払え、

被告安田は同目録記載(1) の建物から、被告赤坂は同目録記載(2) の建物のうち北側四坪の部分から、被告中野は右(2) の建物のうち南側四坪の部分から、被告福山は同目録記載(3) の建物のうち北側五坪の部分から、被告盛田は右(3) の建物のうち中央五坪の部分から、被告宮内は右(3) の建物のうち南側五坪の部分からそれぞれ退去して原告に対し該敷地を明渡すべし

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告指定代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因として

(一)  十和田市大字三本木字南金崎九十九番地二百四十八坪七合九勺はもと陸軍省所管、旧国有財産法上の公用財産であつたが終戦後大蔵省に引き継がれ現在普通財産として原告所有の土地である。

(二)  しかるに、被告小山田は正当の権原がないのに昭和二十七年十二月以前より右土地に別紙目録記載の建物を建築所有して右土地を不法に占有し、かつ、原告に対し貸付料相当額の損害を与えている。しかして大蔵省の定めた土地の貸付料評価基準に拠れば右土地の貸付料は、昭和二十七年十二月一日より翌二十八年三月三十一日までの間は金七百七十二円、昭和二十八年四月一日より翌二十九年三月三十一日までの間は金三千五百四十七円、昭和二十九年四月一日より翌三十年三月三十一日までの間は金五千三百二十円、昭和三十年四月一日より同年十一月三十日までの間は金三千九百十円、昭和三十年十二月分は金四百八十七円である。

(三)  又、同様いずれも正当の権原がないのに、被告安田は同目録

記載(1) の建物に、被告赤坂は同目録記載(2) の建物のうち北側四坪の部分に、被告中野は右(2) の建物のうち南側四坪の部分に、被告福山は同目録記載(3) の建物のうち北側五坪の部分に、被告盛田は右(3) の建物のうち中央五坪の部分に、被告宮内は右(3) の建物のうち南側五坪の部分にそれぞれ居住してその敷地を不法に占有している。

(四)  よつて、原告は被告小山田に対しては同目録記載の建物全部を収去して前記土地の明渡しを求めるとともに、右土地の不法占有による損害賠償として昭和二十七年十二月一日より同三十年十一月三十日までの間の貸付料相当額金一万三千五百四十九円及び昭和三十年十二月一日より右土地の明渡済に至るまで一ヶ月金四百八十七円(昭和三十年十二月分の貸付料相当類)の割合による損害金並びに右金一万三千五百四十九円に対する本件訴状訂正申立書送達の日の翌日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、その他の被告等に対してはそれぞれ居住する前記建物から退去してその敷地の明渡を求める。と述べ、

被告小山田、被告安田、被告福山及び被告盛田の抗弁に対し、主張事実をすべて争う。と述べ、被告小山田訴訟代理人及び被告安田、同福山はそれぞれ「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁並びに抗弁として、

被告小山田訴訟代理人は、

原告主張の事実中(一)の事実及び(二)の事実中被告小山田が主張の如く主張の建物を建築所有していることは認めるが、その余の事実は認めない。同被告は昭和二十年三月当時国の代表機関たる第八師団長の承認の下に青森県上北郡藤坂村字相坂に駐屯していた部隊の部隊長陸軍大尉佐藤誠から本件土地を隣接の畑とともに期限の定めなく、賃料の代りに同被告が野菜を市価の一割安で右部隊に納入することとして賃借し、以来該賃借権にもとづいて右土地を使用しているものであるから原告の本訴請求は失当である。

仮に、同被告が右土地を賃借したものでないとしても右土地に建在する別紙目録記載の建物は原告が昭和二十年に建築し以来人の居住に供し現在ではそれぞれ他の被告等を居住せしめているものであつて、原告は当初より右事実を熟知し、これを黙認して来たところである。しかるに今日右建物の収去並びに右土地の明渡を求めるに至つたのは一に右土地を他に売却せんが為のものである。斯の如きは右被告等の居住権を侵害するもので信義誠実の原則に違背し、かつ権利の乱用に亘る措置で許さるべきでない。

又、右土地には原告所有の大木が生立し、被告小山田はその全地域を使用している訳ではなく原告の損害額算定の方法も妥当でないから損害額についても争う。と述べ

被告安田は昭和二十八年三月二十四日被告小山田より同目録記載(1) の建物のうち西側の部分を期間昭和二十八年三月三十日より同三十年三月三十日まで、賃料一ヶ月金二千円、敷金一万円と定めて賃借し、昭和三十年二月一日更に右建物の東側の部分を期限の定めなく賃料を金二干円と定めて賃借し、爾来約定の賃料を支払い現在まで引き続き右建物を使用するものであつて不法に居住するものでないから原告の請求には応じ難い。と述べ、

被告福山は、昭和二十八年一月被告小山田より原告請求の建物を賃料は一ヶ月金千二百円で賃借し現在まで引き続き右建物に居住するものであるから原告の請求には応じ難い。と述べた。

被告盛田は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないがその陳述したものとみなされる答弁書の記載によれば「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め同被告は昭和二十九年五月十二日被告小山田より原告請求の建物を期限は三ヶ年、賃料は一ヶ月金千二百円、敷金は金三千円と定めて賃借し、現在まで引き続き右建物及びその敷地を使用するものであるから原告の請求には応じ難い。というにある。

被告赤坂、同中野、同宮内はいずれも適式の呼出を受けながら本件最初の口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しない。

〈立証 省略〉

理由

まず、原告の被告小山田に対する建物収去土地明渡の請求について判断するに、十和田市大字三本木字南金崎九十九番宅地二百四十八坪七合九勺がもと陸軍省所管、旧国有財産法上の公用財産であつて終戦後大蔵省所管に引き継がれ現在普通財産として原告所有の土地であること、右被告が現在右土地に別紙目録記載の建物を建築所有し右土地を占有していることは当事者間に争がない。よつて同被告の右土地の占有は昭和二十年三月軍との間に締結した賃借権に基くものであり、仮に然らずとするも原告の請求は右建物に居住する被告等の居住権を侵害し、権利の乱用に亘り信義誠実の原則に違背する措置である旨の抗弁について考察するに右地が旧国有財産法上公用財産に属することは前認定のとおりであつて、かかる土地については原則として私人に対する貸付が禁止されていることは同法第四条の規定に徴して明らかであるばかりでなく、証人佐藤誠、同菊地道男の各証言及び被告本人尋問の結果の一部を綜合すれば右土地は昭和二十年三月頃旧陸軍の三本木軍馬補充部の用地であつたが、当時青森県上北郡藤坂村(現在十和田市大字三本木字藤坂)に駐屯して、いた陸軍護弘師団藤坂部隊は食糧を自給自足するため「現地自活班」を編成し非常の際の措置として国有地を耕作して食糧増産に励み、又、民間人に対し国有地を耕作して蔬菜等を栽培し軍に納入するよう協力を求めたのであるが、その際右藤坂部隊に所属するもと陸軍大尉訴外佐藤誠は被告小山田が右軍の協力要請に応じて申し出たので同被告に対し右土地を含めた約一町歩の国有地につき蔬菜の栽培を依頼し、右被告は右国有地を耕作して蔬菜を栽培しこれを加工する等して軍に時価の一、二割安で納入し、右国有地の一部に蔬菜の干燥その他の加工のために軍から払下げを受けた木材を使用し六坪程度の小屋を建築したこと、しかしながら間もなく終戦となつたので右のような措置は廃止せられたことを認定することができるが右事実は単に旧陸軍が非常の際の措置として私人に国有地を耕作せしめて蔬菜等の栽培を依頼しただけに過ぎずいまだ右被告主張のような賃貸借であるとは解し難く、池に主張のような賃貸借を認めるに足りる証拠はないから同被告主張の右賃貸借の抗弁は採用できない。しからば他に右土地の占有につき正当の権原を有することについて何等の主張も立証もない本件では、同被告はこれを不法に占有しているものというべく、同被告は原告に対し同地上の建物か収去してその敷地を明渡す義務あるものといわなければならない。そうだとすれば原告の同被告に対する本訴請求は右建物に居住する被告等の居住権を不当侵害するものとは解し難いし、又、何等権利の乱用に亘り信義誠実の義務に違背する措置であるとも解し難い。被告小山田のこの点に関する抗弁も、失当である。

よつて進んで原告の同被告に対する不法占有に基く損害賠償の請求につき判断するに、成立に争のない甲第二号証の記載に証人近藤良平の証言を綜合すれば、右被告が右土地に別紙目録記載の建物を建築したのは昭和二十七年十一月中旬頃であること、大蔵事務官近藤良平が昭和三十年十一月右土地の使用料相当額を算定した結果によれば右土地の使用料相当額は昭和二十七年十二月一日より翌二十八年三月三十一日までの間は金七百七十二円、昭和二十八年四月一日より翌二十九年三月三十一までの間は金三千五百四十七円、昭和二十九年四月一日より翌三十年三月三十一日までの間は金五千三百二十円、昭和三十年四月一日より同年十一月三十日までの間は金三千九百十円、昭和三十年十二月分は金四百八十七円であること、しかして右算定に当つては右土地の位置、状況の調査を経て略々同一条件の近傍の土地の固定資産評価額を基礎としたことを認定することができる。同被告は右土地には原告所有の大木が生立しその全地域を使用している訳ではない旨主張してその総損害額を争うけれども右認定したとおり原告主張の損害額の基礎となる右土地の使用料はその位置、状況等の調査を経て略々同一の条件の近傍の土地の固定資産評価額を基礎としたものであることが明かであるから右主張は失当である、以上の事実からすれば原告が被告に対し原告主張のとおり金一万三千五百四十九円及び昭和三十年十二月一日より右土地の明渡済に至るまで一ヶ月昭和三十年十二月分の貸付料相当額金四百八十七円の割合による損害金並びに右金一万三千五百四十九円に対する本件記録上明らかな原告の訴状訂正申立書送達の日の翌日である昭和三十年十二月一日より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払義務あるものというべきである。

次に、被告安田、同福山、同盛田に対する請求について判断するに原告主義の本件土地が原告に属することは同被告等の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなすべく、又同被告等がそれぞれ別紙目録記載の建物中原告の請求部分に居住しその敷地を占有していることは同被告等の認めて争わないところであるから右事実を自白したものと看做すべきところ同被告等はそれぞれ被告小山田から右建物を賃借居住している旨主張するが右被告等はその主張の事実につき何等の立証をなさず、なお前記被告小山田に対する請求につき認定したところからすればたとえ右被告等が主張のように右被告小山田よりそれぞれ右建物を賃借しているものとしてもこれを以てその土地所有者たる原告に主張し対抗できないものというべく、従つてその存否について判断するまでもなく同被告等はそれぞれ原告に対して右建物から退去してその敷地を明渡す義務がある。被告の同被告等に対する請求は理由がある。

更に被告赤坂、同中野、同宮内に対する請求について判断するに、同被告等に対する原告主張の請求原因事実は同被告等において明らかに争わないから、これを自白したものと看做すべく、同車実によれば原告の同被告等に対する請求は理由がある。

よつて原告の被告等に対する本訴請求はすべて正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木次雄 宮本聖司 高瀬秀雄)

目録〈省略〉

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